人生100年時代の歩き方を考えるトーク番組 • 時代の変化が激しい。コロナ禍が、社会のデジタル化を加速。2025年には団塊の世代が75歳以上となり、本格的な超高齢社会が到来する。地球温暖化や貧困、戦争など、グローバルに解決しなければならない問題にも直面している。 • ところが本来、知見を伝えなければならないシニア世代と、若者世代の間に深刻なコミュケーションギャップがある。時代が変わっても過去の経験や知識が無駄になるわけではないが、シニア世代も時代の変化についていけず、自信を失っている。 • 18歳で成人になったばかりの若者から、学び直したい大人まで、混迷の時代に知っておきたい知識、情報をお伝えする。

翔べ!ほっとエイジ〜人生100年時代の歩き方トーク
Claim This Podcastby 相川浩之(ジャーナリスト)
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人生100年時代の歩き方を考えるトーク番組 • 時代の変化が激しい。コロナ禍が、社会のデジタル化を加速。2025年には団塊の世代が75歳以上となり、本格的な超高齢社会が到来する。地球温暖化や貧困、戦争など、グローバルに解決しなければならない問題にも直面している。 • ところが本来、知見を伝えなければならないシニア世代と、若者世代の間に深刻なコミュケーションギャップがある。時代が変わっても過去の経験や知識が無駄になるわけではないが、シニア世代も時代の変化についていけず、自信を失っている。 • 18歳で成人になったばかりの若者から、学び直したい大人まで、混迷の時代に知っておきたい知識、情報をお伝えする。
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October 5, 2025
第39回は、ロボット学者の石黒浩さんに聞く 大阪・関西万博で伝えた「アバター、ロボットの未来」
<p> 今回のゲストは、ロボット学者の石黒浩(いしぐろ・ひろし)さん.。</p><p> 石黒さんは大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「いのちの未来」のプロデューサーを務めた。万博で伝えたかったこと、今後50年間にアバターやロボットがどんな形で社会に根づいていくのかを聞く。</p><p> 大阪・関西万博、2025年4月13日に開幕。10月13日に閉幕する。万博への来場者数はすでに2000万人を超えた。万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を体現する8つのシグネチャーパビリオンの中の一つ「いのちの未来」をプロデュースした石黒さんは「会期末になって、もうほとんど、万博会場に入れないぐらいに予約が入っていて、すごく盛り上がっています。大成功だったのではないでしょうか」と話す。「自分たちがいいものを作れれば、ちゃんと人が来てくれると信じて準備してきました」。</p><p> 今、ChatGPTなどを相談相手としても使っている人が増えている。アバターやAIが、私たちの生活を相当変えるのではないかと予想される中、今後、どんなメタバース、アバターの組み合わせが私たちを楽しませてくれるのだろうか。</p><p> この質問に対し、石黒さんは、「私たちが作っているアバターは、実世界で使えるアバターなんです。一応CGのキャラクターがメインですけれども、そのCGのキャラクターをメタバースとか仮想空間で使うんじゃなくて、モニターに映し出して実際の店舗で使うとか、パソコンのECサイトに映し出して、実際パソコンで何かものを買うときのサポートに使う。実世界で働くために使うアバターというのが我々の目指しているところなんです」と、あくまでビジネスで使えるアバターの開発を目指していると語る。「ゲームの中のプレーヤーの人が仮想空間やメタバースでアバターを使って働く、お金を稼ぐっていうことはまだできていない。もう少し時間かかるかなと思います。メタバースは特に性能のいいコンピューターや没入感が得られるヘッドマウンテッドディスプレイとかがないとなかなか使いづらいわけです。それに加えて通信の問題があります。一度に何人が同じ空間に入れるかというと、まだまだ人数が限られているわけですね。もう少しインフラやPCの性能が向上しないと、自由にメタバースで遊ぶことはできないし、その先にビジネスが起こるというのはもっと先かなというふうに思います」とメタバースは技術的な制約がネックになっていることを明らかにする。</p><p> しかし、それ以上に「現在の社会を変革するためにアバターを使うとことが大事」と石黒さんは強調する。「特に日本ではこれから、どんどんと人口が減って、その人口が減っていくのをどういう技術で支えればいいかが課題になっている。そう考えた時に、決め手になるのはAIやロボットやアバターだと思うんですね。アバターを使えば通勤しなくても瞬時に働けるようになります。家の中で仕事や、やることがあって家を離れられない人も、ちょっと空いた時間ですぐに働けるようになりますし、そもそも東京とかだと、多分1日2時間から3時間通勤に費やしている人が多いと思うんですけれども、その時間全て働けるようになれば、すごく生産性が上がるわけですよね。さらには外国の人がアバターを使って日本で働いてくれるようになると、労働市場を国際化することができて、本当に世界を変えることができると思います」。</p><p> ブレインマシンインターフェイスのようなものが実用化すれば、コントローラーを使わなくても、自分の体で動けるようになる。そうすると、身障者や高齢者は実際にはあまり動けないのにメタバースでは自由に動き回れるようになる。こうした動きは、現実の世界で始まっている。 「例えば、私が経営しているAVITAというコンピューターグラフィックスのアバターを提供している会社があるんですけれども、そのAVITAの製品では、例えばローソンの自動化レジの横でアバターを表示して、お客さんに何か分からないことがあればアバターに聞けるというようなサービスを提供しているんですよね。そのアバターのオペレーターとして働いている人は、例えば障害者の方がおられて、車椅子を使っておられるんですけれども、アバターであれば別に出社する必要ないわけです。だから家からアバターを使って自由に働くということがもう既に起こっています」(石黒さん)。</p><p> アバターは高齢者に寄り添う存在になるかもしれない。倒れて意識不明になった患者の治療をどうするか。そんな時に役立つのがAIアバターだ。</p><p> 「アバターは、特に高齢者の対話のパートナーにもなり得るし、いろんな身の回りのお世話をするものにもなると思うんです。今どんどんと高齢者介護用のいろんな装置が開発されてきていますけど、今後ヒューマノイドというか人間型ロボットの技術が進んでくると、高齢者介護用のヒューマノイドが登場する可能性もあるわけです」(石黒さん)。</p><p> 「そうしたときに、そういったヒューマノイドは単に何か物理的なサービスを提供するだけじゃなくて、高齢者の方の話し相手にもなっていくわけですね。そして、高齢者の方との話を通じて、この人はどういう意図を持っているのか、何をしたいのかっていうのを丁寧に理解して、高齢者の方の意思を引き継ぐというか、意思決定を助けていくというようなことが、少なくとも50年経てば十分に起こる、起こり得ると思いますね」。</p><p> ロボットについても聞いた。</p><p> 石黒さんは「漫画の中に登場するロボットが全部実現するかっていうと、それは難しいところはあると思います。50年でもできないロボットは、漫画の中にはいくつもあるかなというふうには思います」と見る。「でも今、あのアメリカや中国では盛んにAIだけじゃなくてヒューマノイドも開発されていますし、家の中で、片付けをしたり、洗濯物を取り込んだりですね、いろんなサービスをするヒューマノイドロボットっていうのは、比較的近い未来にやってくるかなと、実用化されるかなと思います。何年かっていうのはなかなか言いづらいですけど、5年とか10年とかそれぐらいで人間型ロボットが家の中や工場の中で利用することが実現しそう」ということだ。</p><p> 気になるのは、記憶や知識をアンドロイドに移し替えるということ。</p><p> 「例えば私のアンドロイドがあります。ジェミノイドっていうんですけれども、それには私が書いた本すべて入力してあって、こういうメディアのインタビューも入ってるんですよね。そのジェミノイドとしゃべると、ほとんど私と同じようにしゃべることができます」(石黒さん)。</p><p> なるほど。脳そのものをコピーするのではなく、著書やその人の書いたものを可能な限りアンドロイドに読み込ませるのなら、自分に近いAIは生まれそうだ。</p><p> 石黒さんは「現時点でそれぐらいできているので、これから感情の研究とか意識の研究はどんどん進んでいきます。そうすると、5年、10年で、現存する人間の記憶を引き継いで、アンドロイドとしていろんな人と対話をしていくような、そんなものは実現される可能性があると思うんですよね」と新たな可能性にも言及する。</p><p> 町亞聖さんが素朴な質問をぶつける。</p><p> 「石黒さんは、50年、100年先に人間の寿命が150歳になるというようなことも想定されていました。肉体の制約から解放するとか、人間の体の一部を機械に置き換えるといった話もあります。ただ、本当にそれが幸せなのかというところがよくわかりません」。</p><p> これに対し、石黒さんは熱く語った。</p><p> 「かつて我々の寿命はもっともっと短かったわけですよね。20歳とか30歳とか。でも、例えば抗生物質やワクチンを使うようになって、自動車に乗るようになって、どんどん、体も人工的に進化してきていますし、いろんな能力も人工的に進化している。で、死亡率も減って寿命も延びています。これはもっともっと続いていくと思うんですよね。じゃあ昔より我々は不幸になったのかというと、僕は全くそう思わないです。人生の時間が長くなれば、より多くのことを経験して、より心も豊かになってきているはずだと思います」。</p><p> 「人間というのは単なる動物というより、テクノロジーで進化してきた生き物」というのが石黒さんの考え方だ。 あとは聴き残した話題をいくつか。 パーソナルモビリティと言われているものが何かすごく面白くなるんじゃないか。</p><p> 「パーソナルモビリティの中にもAIが使われていくと思いますよね。だから、人間以上の感覚というか、センシング能力でいろんなものを見つけて、それを人に提案してくれる。その人の好みに応じて、人間の肉眼では見えないもの、人間の記憶力だったり、情報処理能力ではわからないものまでも、見つけてきてくれる可能性は十分にあると思います」(石黒さん)。</p><p> ジャーナリズムの世界はどう変わる?</p><p> メディアは形をだいぶ変えてきたかなと思うんですよね。昔はブロードキャスト型のメディアが中心でした。でもそこにYouTubeとかもう少しインタラクティブなメディアが登場して、もっとリアルタイムにいろんな情報を発信できるようになった。僕は根本的には人っていうのは人と関わるために生きていて、たとえそれが仕事にならなくても、人は人と関わり続けます。で、そこにAIがいても、AIを人と認めればもちろんAIと関わるし、認めなくてもAIの力を借りながらいろんな人と関わって、自分への理解、社会への理解を高めていくと。僕はそれが何か人間が生きている大きな目的の一つで、ジャーナリズムは形を変えながらですね、そういう人間の、その生きる根本的な目的を支えていくような、そんな仕事に発展するんじゃないかなと思っています」(石黒さん)。</p>

August 16, 2025
第38回は、社会学者の上野千鶴子さんに聞く(下)老いを受け入れる勇気をーーボーヴォワール「老い」を読み解く
<p> 今回のゲストは、社会学者の上野千鶴子(うえの・ちづこ)さん.。</p><p> 上野千鶴子さんが新著『アンチ・アンチエイジングの思想――ボーヴォワール「老い」を読む』で投げかけているのは、現代社会の根深い「老い」を嫌悪する価値観への根本的な問いかけだ。フリーアナウンサーの町亞聖とジャーナリストの相川浩之との対談で明らかになったのは、私たちが無意識のうちに内面化している「生産性のない人間には価値がない」という思想の危険性だった。</p><p> 上野さんは長年にわたって女性問題を研究してきたが、現在は高齢者問題に軸足を移している。しかし、これは研究分野の転換ではなく、自然な延長線上にある取り組みだと語る。女性として当事者研究を行ってきた上野さんが、今度は老いた女性として当事者の立場から研究を続けているのだ。</p><p> 超高齢社会においては、誰もが必ず老いを迎える。老いるのが嫌なら早死にするしかないという現実の中で、上野さんは超高齢社会を「恵み」と表現する。なぜなら、障害者差別や女性差別とは異なり、高齢者差別は最終的に自分自身に跳ね返ってくる差別だからだ。男性が女性になる可能性はほとんどないし、健常者が障害者になる可能性は相対的に低いとしても、老いは長生きすれば誰もが確実に迎えざるを得ない。この避けることのできない現実が、私たちに真の平等と共生について考える機会を与えているのである。 上野さんが今回取り上げたシモーヌ・ド・ボーヴォワールの『老い』は、1970年に発表された古典的名著だが、その内容は現代においても驚くほど新鮮で痛烈だ。ボーヴォワールは博覧強記の人として知られ、古今東西の文献から老いに対する否定的な言説を容赦なく引用している。例えば、ツルゲーネフの「人生で最悪のこと。それは55歳以上であることだ」という言葉は、現代の多くの人々にとって身につまされる内容だろう。 この本を「いやな本」と上野さんが表現するのは、これでもかこれでもかと畳み掛けるように、過去から現在に至るまで老いがいかに軽蔑され、忌避されてきたかを明らかにするからだ。しかし、この徹底的な検証こそが、私たちが無意識のうちに抱いている老いへの偏見を浮き彫りにする。ボーヴォワールが「老いは文明のスキャンダルである」と述べたのは、人間の生き死にが生産性や効率で測られることの根本的な誤りを指摘したものだった。</p><p> 現代社会では、アンチエイジング産業が巨大な市場を形成している。高額な化粧品やサプリメント、健康食品などが「若さの維持」を謳い文句に販売され、消費者は値段の高い商品から購入していく傾向があるという。しかし、上野さんはこうした現象を「はかない望みを託している」と批判的に捉える。年齢を隠したがったり、「若いですね」と言われて喜んだりする行為も、結局は老いることへの恐怖と拒絶の表れに他ならない。</p><p> 上野千鶴子さんが「老い」を意識したのはいつか?</p><p> 「私は早かったですよ。30代で自分の人生が時間もエネルギーも有限だと思いました。それまでドブに捨てるように無限だと思っていたんですが」。 「それで、私、今、後期高齢者ですので、ボディーのパーツが故障してきています。もう腰椎圧迫骨折もしましたし、変形性股関節症にもなりましたし、目ん玉も悪くなりましたし、乳がんにもなりました。だからパーツがいろいろ故障してきますね。でも抗えない過程なので、どんなに頑張っても。で、それでも生かしてもらえる。結構なことではありませんか」。</p><p> 上野さんは「高齢になっていろんな老い、衰え方をした人たち、特に認知症になった人を、公衆の目からご家族が隠すことはやめてほしい」と言う。免疫学者の多田富雄さんは脳梗塞で後遺障害になった姿を公開の場に出てこられて見せたし、認知症の専門医の長谷川和夫さんご自身が認知症になって、やっぱりその姿を世間にさらして、ご家族もそれを認めたという。</p><p> 高齢者問題を考える上で重要なのが、「自立」という概念の捉え方だ。上野さんは、高齢者と障害者では自立の定義が180度異なることを指摘する。介護保険法における高齢者の自立支援とは、「介護保険を使わないあなたが偉い」という意味合いが強い。一方、障害者総合支援法における自立とは、できないことは介助を受けて当たり前で、その上で自分がやりたいことをやることを指している。</p><p> この違いは、社会の価値観の根深い問題を浮き彫りにする。高齢者は自分でできなくなることを恥じ、他人の世話になることを申し訳なく思う傾向がある。特に、トイレ介助や食事介助を受けることになったら「死んだ方がマシ」と考える人も少なくない。しかし、24時間介助が必要でも自立して生活している障害者は数多く存在する。「オムツをしたぐらいでは死ぬ理由にはならない」(上野さん)のだ。</p><p> 上野さんは、これからの高齢者に必要なのは「自己解放」だと述べる。自己解放とは、自分を他人に委ねる力のことだ。できないことはできないと素直に認め、必要な支援を受け入れる。それは決してその人の価値を貶めるものではない。むしろ、残存能力を活用しながら、支援を受けて自分らしい生活を続けることこそが真の自立なのである。 上野さんの研究において重要な示唆を与えているのが、障害者との交流から得られた知見だ。先天性の障害を持つ人と中途障害者では、障害に対する受けとめ方が大きく異なる。先天性の障害者にとって、障害は最初からの初期条件であり、「不便だけど不幸じゃない」という言葉で表現される。一方、中途障害者は、障害を負う前の自分と現在の自分を比較してしまい、自己嫌悪に陥りやすい。</p><p> 高齢になることは、すべての人が何らかの形で中途障害者になっていくプロセスと捉えることができる。しかし、視覚障害者は見えなくても楽しく暮らしているし、聴覚障害者は聞こえなくても豊かなコミュニケーションを築いている。車椅子利用者は電動車椅子で自由に移動を楽しんでいる。</p><p> 現在の介護システムには多くの矛盾が存在する。要介護認定を受けた高齢者だけが様々な介護サービスを利用できる仕組みや、高齢者だけを集めたデイサービスの在り方などに、上野さんは疑問を投げかける。なぜ高齢者が高齢者だけの場所に集まらなければならないのか、なぜ要介護になったら年寄りばかりが固まって過ごさなければならないのか。</p><p> 理想的な社会とは、多世代の人々が様々な場所で自然に交流し、どこに行っても必要な支援を 受けられる環境だ。麻雀をしたい人が雀荘に行き、そこで働く人が介護福祉士の資格を持っていれば良いのだ。喫茶店のウェイターやウェイトレスが介護の心得を持っていれば、高齢者も気兼ねなく外出を楽しめる。特定の場所に要介護者を集め、資格を持った人だけを配置するという現在のシステムは、効率性を重視した結果生まれた人為的な分離に過ぎない。</p><p> 障害者総合支援法では外出介助が認められており、コンサートや映画鑑賞なども支援の対象となる。しかし、介護保険ではこうした「楽しみ」のための外出は基本的に認められていない。人間が生きるということは、食べて寝て排泄するだけではない。楽しみや交流、コミュニケーションも生きることの基本的な要素なのだ。 </p><p> これからの高齢者は、これまでとは大きく異なる特徴を持つと予測される。上野さんが挙げる新しい高齢者像は以下のようなものだ。自分のことは自分で決めたい、デイサービスには行きたくない、施設にも入りたくない、おためごかしの作業や子供だましのようなレクリエーションはしたくない、最後は自分のことは自分で決めたい。</p><p> この変化の背景には、世代交代による価値観の変化がある。これまでの高齢者は、こんなに長く生きることを予期していなかった。人類史上初めて「死ぬに死ねない」状況に直面し、茫然自失している面がある。終活について話すことさえタブー視してきた世代だった。しかし、その次の世代は、上の世代の介護を通じて老いについて学習し、死や葬儀についても公然と話し合える環境を作り上げている。</p><p> この学習効果は、介護保険制度の25年間の蓄積とも相まって、大きな変化をもたらしている。現場での経験値が上がり、担い手のスキルが向上し、人材が育った結果、かつては不可能とされた在宅でのひとり死も、本人が希望すれば支援できるようになった。この変化は、若い世代にとっても大きな意味を持つ。親を一人で安心して置いておけるし、自分も親から安心して離れていられる。 現代社会では世代間対立が問題視されることがある。若い世代から「高齢者は金を貯め込んで自分勝手だ」という批判の声が上がったり、極端な場合には「高齢者は集団自決せよ」といった暴言まで飛び出したりする。しかし、こうした対立の根底にあるのは、やはり生産性至上主義の価値観だ。</p><p> 重要なのは、介護保険は高齢者だけのためのものではないという認識だ。誰もがいずれ年を取り、親の介護が必要になる。現在、ビジネスケアラーと呼ばれる介護をしながら働く人々が300万人いるとされるが、これは介護保険があるからこそ実現している状況だ。もし介護保険がなければ、これらの人々は離職を余儀なくされ、社会全体の損失は計り知れないものになるだろう。</p><p> 若い世代には、自分たちも必ず老いることを理解してもらいたい。そして、現在の高齢者支援システムが、将来の自分たちのためでもあることを認識してもらいたい。世代間の対立ではなく、世代を超えた連帯こそが、真の意味での持続可能な社会を築く基盤となるのだ。</p><p> 受け入れ、支え合いながら下り坂の人生を安全に歩んでいくための道標を示している。それは、真に成熟した社会への転換点となる思想なのかもしれない。</p><p><br></p>

August 16, 2025
第37回は、社会学者の上野千鶴子さんに聞く(上)介護保険制度の危機を乗り越え「ケア社会」をつくる
<p> 今回のゲストは、社会学者の上野千鶴子(うえの・ちづこ)さん.。</p><p> 人生100年時代を迎えた日本社会において、介護保険制度の行方は全ての国民にとって切実な問題となっている。この制度の根幹を揺るがす改悪案に対し、市民レベルから声を上げたのが、社会学者の上野千鶴子さんと評論家の樋口恵子さん。2人が手を結ぶきっかけは、立ち話だった。2014年の介護保険改定で危険な改悪案が浮上した際、ふたりは「このまま放置すれば取り返しのつかないことになる」という危機感を共有。上野さんが理事長を務めるウィメンズアクションネットワークと樋口さん率いる高齢社会をよくする女性の会が核となり、介護関係者、利用者、家族を巻き込んだ介護保険改悪反対運動が始まった。</p><p> 2020年1月14日、衆議院第一議員会館で開催された「介護保険の後退を絶対に許さない!1・14院内集会」には約300人の関係者が集結した。この集会を皮切りに、介護保険改悪阻止の運動は全国に広がりを見せ、2023年には「ケア社会をつくる会」として正式にネットワーク化された。</p><p> 運動を進める過程で明らかになったのは、介護関係者間の横のつながりの希薄さだった。ケアマネジャー、リハビリ専門職、介護職員など、様々な専門職が分断されており、利用者の当事者団体も認知症の人と家族の会を除けば組織化が進んでいない現実があった。この状況を打破するため、職種を超えた緩やかな連携の構築が急務となった。</p><p> ケア社会をつくる会は、2024年の参議院選挙に向けて主要政党へのアンケート調査を実施した。その結果、立憲民主党、社民党、共産党、れいわ新選組などが介護保険制度に言及し、特に立憲民主党は「幸せな在宅ひとり死への支援」という上野氏の提唱する概念まで政策に盛り込んでいた。</p><p> しかし、これらの政党が選挙で得票を伸ばすことはできず、介護問題が有権者の投票行動に与える影響は限定的だった。一方で、国民民主党や参政党を支持する介護関係者もおり、介護現場の政治的志向の多様性も浮き彫りになった。</p><p> 上野さんは、ジェンダー問題が近年の選挙で投票行動に影響を与え始めているように、介護問題も継続的な取り組みによって政治的な争点として認知される可能性があると分析している。アメリカには会員数3600万人を誇る全米退職者連盟という強力な高齢者利益団体が存在し、党派を超えて政治的影響力を行使している。日本でも同様の当事者組織の必要性が求められている。</p><p> 記者会見や院内集会を重ねる中で、メディアの関心の低さも課題として浮上した。「読売新聞は一度も取材に来ず、産経新聞は最後に一度だけ参加した程度で、テレビ局の対応も消極的だった。記者の質問レベルからは、介護保険制度に対する理解不足も明らかになった」と上野さんは言う。</p><p> 2024年の介護報酬改定では、運動体が想定していなかった訪問介護報酬の大幅削減が実施された。この改定により、全国で訪問介護事業所の倒産、休業、廃業が相次ぎ、介護現場は深刻な危機に直面している。</p><p> 共産党系の「赤旗」の調査によると、全国の自治体で介護保険事業所が完全に消失した地域が100以上、事業所が1つしか残っていない地域が300程度に上るという衝撃的な実態が明らかになった。上野さんらはこの状況を「保険詐欺」と表現し、保険料を徴収しながらサービスを提供できない制度の矛盾を厳しく批判している。</p><p> 現在の要介護高齢者の多くは昭和時代を生きてきた世代であり、特に女性は家族のためにケアを提供する役割を担ってきた。この世代は要介護状態になると自らの存在意義を見失い、家族に迷惑をかけないよう遠慮がちになる傾向がある。</p><p> しかし、戦後生まれの世代は権利意識が高く、自分のことは自分で決めたいという意識を持っている。また、独居高齢者の増加により、家族に依存しない生き方を選択する高齢者も増えている。年金制度の影響も大きく、厚生年金受給者の比率が高い世代は経済的自立度が高く、従来の高齢者像とは大きく異なる特徴を示している。</p><p> 国民年金制度の設計時には、自営業者は死ぬまで働き続けるという前提があり、年金は孫への小遣い程度の位置づけだった。しかし、現実には年金収入が唯一の収入源となる世帯が多数存在し、制度設計の根本的な誤りが露呈している。40年間保険料を納付しても受給額は最大7万円程度で、生活保護水準を下回るという矛盾が生じている。</p><p> この問題の解決には、最低保障年金の導入や現行制度下での生活保護との差額支給の活用が考えられる。しかし、行政の周知不足やケアマネジャーの知識不足、受給に対するスティグマ(恥辱)などが障壁となっている。</p><p> 介護保険制度を持続可能なものにするためには、負担と給付のバランスを根本的に見直す必要がある。日本の社会保障制度は健康保険、国民年金、介護保険の「国民皆保険3点セット」で構成されており、介護保険だけを切り離して論じることはできない。</p><p> 介護保険や健康保険が利用者負担を求める前提として、高齢者に一定の購買力があることが想定されている。この購買力を保証するのが年金制度であり、年金制度の不備が介護保険制度の機能不全を招いている側面がある。 現在、日本の国民負担率は保険料と税負担を合わせて46%となっており、OECD諸国の中では中位に位置している。つまり、中負担中福祉の国家へと変化しているが、この負担をどう配分するかが課題となっている。</p><p> 介護保険料は制度開始時の3000円台から現在は6000円台へと倍増しており、高い自治体では9000円台に達している。保険料負担はほぼ上限に達しているとの見方が強く、今後は公費負担割合の引き上げが不可欠とされている。現在は保険料と公費が半々だが、国費負担を25%から35%に引き上げる案が複数の政党から提示されている。</p><p> 国政レベルでの制度改革が進まない中、自治体レベルでの独自の取り組みが注目されている。介護保険制度では自治体が保険事業者となっており、上乗せ・横出しサービスの提供が可能である。</p><p> 村上市の事例では、市長の政治的決断により訪問介護事業所への支援が実現した。この背景には、地域の介護事業者と市民のネットワークが市議会を動かし、市長に働きかけたプロセスがある。同様の動きは全国各地で見られ、市議会や区議会では介護保険改悪阻止を求める決議が相次いで採択されている。</p><p> 上野さんは「決議を出すなら予算も出すべき」と主張し、自治体の積極的な財政支援を求めている。介護保険給付費の積立金は多くの自治体で黒字となっており、現在のような非常時にこそ活用すべきだとの考えを示している。 こうした地方からの取り組みが全国に広がることで、国政への圧力となり、制度改革の推進力になることが期待されている。自治体と市民の連携による「地方から国を包囲する」戦略は、市民運動の新たな可能性を示している。</p><p> 介護保険制度は2025年で制度開始から25年を迎え、歴史的検証には十分な時間が経過している。制度創設時に理想主義に燃えて制度設計に関わった市民や官僚の多くは高齢化し、官僚は世代交代が進んでいるが、上野さんは、介護保険制度の抜本的な見直しの時期が来ていると指摘している。各政党の公約を見ると、制度見直しの方向性は二極化しており、現状維持・改善を目指すグループと、負担増・給付抑制を進めるグループに分かれている。</p><p> 制度創設時には「介護の社会化を進める1万人市民委員会」が労使を超えた世代横断的な運動を展開した。現在も同様の国民的議論の場が必要だが、メディアの劣化や政治不信により、十分な議論が行われていない現状がある。</p><p> 社会保障制度に対する国民の意識調査では、より良い社会保障のために現在以上の負担を受け入れる意思を示す国民が5割を超えている。しかし、政府への不信が負担受け入れの障壁となっており、政治不信の解消が制度改革の前提条件となっている。</p><p> ケア社会をつくる会は、単なる反対運動を超えて、望ましい介護保険制度のあり方を提示する建設的な役割を担おうとしている。職種を超えた緩やかな連携、自治体レベルでの実践的取り組み、そして長期的視野に立った制度設計の議論を通じて、真の「ケア社会」の実現を目指している。この運動が示す市民参加型の制度改革アプローチは、日本の社会保障制度全体の未来を占う重要な試金石となっている。</p>
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