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高校生からの哲学雑誌

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October 11, 2021

概念の脈動性を活写する

<br /> (インタビュー◎2021年10月4日テレビ会議にて Music: <a href="http://philosophy-zoo.com/archives/4267">Korehiko Kazama</a>)<br /> <br /> <br /> <br /> 入不二基義さんは、青山学院大学で哲学を教えている。自身の思考は日々、ワープロソフトから描画ソフトまで様々なアプリケーションを駆使して記録する。論文執筆時には、集中して、一挙に書き上げる。そうして蓄積された入不二哲学は、複数の概念の動きを捉え、それらが現れたり潜んだり、伸びたり縮んだり、時には螺旋状に流れたりする様子を活写し、独特な言葉遣いで読者の思考を照らす。<br /> <br /> <br /> <br /> <a href="https://amzn.to/3aonmKr" target="_blank" rel="noopener"></a><br /> <br /> <br /> <br /> 入不二さんは、11月11日という誕生日と、神奈川県立湘南高等学校出身であることに誇りをもっている。そもそも書く、という習慣がいつ始まったのか、その記憶を辿ると、幼稚園時代にまで遡る。小さな黒い能率手帳を持ち歩き、近所を探検して、お化けについて記録していたという。概念が動く形で現れ始めたのは、中学時代。数学の授業で習った2進法で、0と1だけで構成される数字の中に、2そのものがどこにも見出せないという衝撃を覚え、頭の中に視覚的なイメージが浮かんだ。これを「2進法の亀裂」だと感じたという。<br /> <br /> <br /> <br /> そういえば、入不二さんの誕生日の1111は、2進法から10進法に書き換えると15になる。誕生日に暗号が隠されているようでもある。高校は神奈川県でも有数の進学校。試験前には、普段感じる疑問を全て封じて勉強に打ち込む一方、文芸部の活動で小説を執筆し、小さな疑問の断片が書き留められた。<br /> <br /> <br /> <br /> 幼少期に入不二少年が見ていたお化けは、幻覚なのか、空想なのか、それとも実在する何者なのか、それはわからない。ただ、お化けたちは「現に」そのような在り方で存在していた。哲学者になった入不二さんが書き下ろした『現実性の問題』という一冊の本があるが、お化けたちの在り方は、この本で描かれる現実の力ともどこかで通じているようでもある。<br /> <br /> <br /> <br /> 『現実性の問題』は、一年程前に刊行され、歴史に残ることを予期させる哲学書として話題になった。ただし、読解は容易ではない。現実の存在という形而上学を扱う哲学書であり、書かれてあることの先に詩や文学との接合を想像させる芸術的な書でもある。その一方で、読み手が正確に理解しようと読み込むうちに、不思議な魅力に取り憑かれる。入不二さんの著作の愛読者たちは、この魅力をエッシャーの騙し絵に喩えたり、精神的な力として感じたりもしている。<br /> <br /> <br /> <br /> さて、入不二さんとのインタビューが終わって、音声を編集しようとしたところ、声と声の間の無音であるはずの区間に、微かな背景音が残されていた。入不二さんの自宅近くの学校では、運動会の予行演習が開催されていて、遠くで響く「今、最後の追い上げです」という放送部の実況のようだった。ここ数年来、私たちの日常は、季節感も時間感覚もぼんやりしたままだ。そんな中でも地球は回って、季節はめぐっている。<br /> <br /> <br /> <br /> 秋空を見上げれば、高く見える。地球に接近する隕石の軌道は、天文学者が観測してくれている。そして哲学者入不二は、人間の概念の動きを見つめて、哲学している。こうして、私たちの暮らしと自由は安全に保たれ、また明日からの生活を前に、安心して眠ることができるのだ。<br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <br /> インタビュー<br /> <br /> <br /> <br /> ※音声の書き起こしを読みやすくするため、加筆修正をしております。<br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <a href="http://philosophy-zoo.com/wp-content/uploads/2021/10/9e613a9359546981e4805f702a27781b.png"></a><br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <br /> 誕生日の問題<br /> <br /> <br /> <br /> 田中:改めまして田中です。本日はビッグ・ゲストです。入不二基義先生に来て頂いております。よろしくお願い致します。<br /> <br /> <br /> <br /> 入不二:よろしくお願いします。<br /> <br /> <br /> <br /> 田中:お時間頂いて本当にありがとうございます。<br /> <br /> <br /> <br /> 入不二:こちらこそ、よろしくお願いします。<br /> <br /> <br /> <br /> 田中:入不二先生は色々な書籍をお出しになっていらっしゃるのでご存知の方は多いと思うのですが、最初にご経歴を簡単にご紹介させて頂きます。<br /> <br /> <br /> <br /> 1958年11月11日、神奈川県のお生まれです。東京大学大学院人文科学研究科博士課程を単位取得満期退学された後、山口大学助教授を経て、現在、青山学院大学教育人間科学部心理学科教授をされていらっしゃいます。主に「私」論・相対主義論・時間論・運命論等を題材に哲学をしていらっしゃいます。珍しい趣味としては、51歳でレスリングを始められて、一年後の52歳で試合デビューも果たしておられます。2020年に筑摩書房より『現実性の問題』という哲学書を上梓されていらっしゃいます。<br /> <br /> <br /> <br /> まず、11月11日生まれということの大事なポイントですね。ここを外さないで下さいと言われて、今、緊張しながら読み上げました。11月11日生まれというのは何かポイントがあるのでしょうか。<br /> <br /> <br /> <br /> 入不二:見たまんまなんですけど、1111ですから、ゾロ目になっていて。誕生日って自分のものすごく小さい頃からついて回っていて、自己紹介も含めて。1の並びだっていうのをすごく意識して育ってきたので。蠍座好きですし、しかも蠍座の中でも1のゾロ目だっていうので、何か自分の出自がそこにあるかのような幻想を小さい頃からもっている。それがこだわりということです。<br /> <br /> <br /> <br /> 田中:省かれると「入れて欲しい」と仰ると(笑)。<br /> <br /> <br /> <br /> 入不二:「入れて欲しい」つながりですが、11月11日への拘りは、幼児の頃からということですけど、普通プロフィールでは出身大学を書くことになっていて、出身高校って字数のこともあって、省略することも多いですよね。でも、この歳になると卒業した大学より高校の方に愛着が出てくるんですよ。遡って、中学校とか小学校も含めて。大学どこどこ卒よりも、高校を入れておきたい、みたいな。私、神奈川県の湘南高校というところの卒業なのですけど、まあ、歳を取ったせいだと思うのですけどね。高校以前にプロフィール的な意識が向かうっていうのは。<br /> <br /> <br /> <br /> 田中:私は九州出身ですけど、神奈川県と東京都は近い感じがあって、住んでいる人はどちらにも愛着があって、神奈川県をフォーカスするのはあまり違いがないように思ってしまったのですが、そこは全然違うのですね。<br /> <br /> <br /> <br /> 入不二:高校の雰囲気という点では、全然違うでしょうね。神奈川県の県立高校で、藤沢の方にあるわけですけど、やっぱり田舎の高校なのですよ。東京都内の高校と比べれば。隣ではあっても、地方の公立高校という色彩が強いのだと思います。<br /> <br /> <br /> <br /> 田中:どんな高校だったのですか?<br /> <br /> <br /> <br /> 入不二:当時は、東大に70名ほど合格するくらいの進学校だったのですが、公立高校だということもあって、大学受験という縛りを忘れているような素振りをしているところがある。自分たちは勉強だけの優等生じゃないよ、と誇示したいかのような。運動だとか部活も十分やっているし、体育祭も物凄く時間をかけてやって、青春を謳歌していますと言いたげな高校でした。それってある種の自己欺瞞でもあるわけですが、優等生特有の微笑ましいものです。私は残念ながらその仲間に入れなかったのですが、でも高校生としては、そういう振りは健全なものだと思います。そういう、「文武両道」の高校でした。<br /> <br /> <br /> <br /> 田中:何か部活とかされていらっしゃったのですか?<br /> <br /> <br /> <br /> 入不二:私、文芸部の部長をやっていて。さっきのレスリングの紹介とは対極で、高校時代に運動部の経験は全...

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August 11, 2020

闇を浮遊する視点から物語を紡ぐ

(インタビュー◎2020年8月5日テレビ会議にて Music: <a href="http://philosophy-zoo.com/archives/4267">Korehiko Kazama</a>)<br /> <a href="https://www.amazon.co.jp/gp/product/4910154051/ref=as_li_tl?ie=UTF8&amp;camp=247&amp;creative=1211&amp;creativeASIN=4910154051&amp;linkCode=as2&amp;tag=midap-22&amp;linkId=9d3c274d8b60adba7413d1c8c6ad8a5d" target="_blank" rel="noopener noreferrer"></a><br /> 清水将吾さんは、大学講師として働く傍ら、東京を中心とした様々な場所で哲学カフェの進行役を務めている。「傍ら…」といっても、清水さんの場合、一方が本業で一方が副業というわけではなさそうだ。「哲学的な謎について人と対話する」ことを中心に据えて、国や分野の境を越えて学びの場を選び、仕事や依頼を受け続けてきた。そして今年の夏、一冊の哲学ファンタジーが上梓された。タイトルは『大いなる夜の物語』。41の謎で構成され、新社会人の登場人物の視点を借りて展開する。清水さんが20代の頃に考え始めた謎も含まれるが、数年前に一冊の物語にしようと決めてからは、「神話の力を借りてスルスルと書き進めることができた」という。<br /> この物語は一風変わっている。一般的な物語では、主人公や書き手の視点という一定の場所から、様々な時空間で起きたことを理解して読み進めることができる。一方『大いなる夜の物語』では、この視点が動くのだ。動くのは時間や空間だけではない。主人公から登場人物へ、その登場人物から書き手へ、さらに地球から宇宙へ、オリオン座の裏側に行ったかと思うとまた物語の主人公の視点に戻ってきたりもする。<br /> 幼少期の清水少年は、シンガポールやアメリカや日本を行き来しつつ、『少年ジャンプ』で日本の漫画文化に慣れ親しんで育った。その後、日本の大学院を修了してからはイギリスに渡り、そのまま哲学の学位を取得する。人生の3分の1は日本語圏外の国で暮らしてきたことになる。清水少年の視点は、空間的に大きく移動してきたが、清水将吾という一人の人としての視点は変わらない。このことが物語の中心的な哲学的な謎にも繋がっている。視点という「儚い点」が存在すること、そしてそれが今日も明日も持続していること、これは一体、どういうことなのか。<br /> 清水さんの哲学者としての原点となるこの謎は、物語の中で視点の動きとして現れている。縦横無尽に動くその描写で、軽い目眩すら覚えるほど。<br /> こうした描写と既存の文学的・物語的表現の共通性を探るため、川端康成の『雪国』冒頭の英訳や、隕石落下について国立科学博物館が伝えるプレスリリースを清水さんに朗読して頂いた。<br /> 任意の動く点を名もない誰かの視点として物語を始められる日本語表現に対して、英語表現は、ユークリッド空間上で “I” や “You” や “the train”として人や物の位置を指差しながら展開する箱のようでもある。『雪国』や隕石落下を伝える日本語表現は、実に巧妙に、しかし極めて自然に、任意の視点を世界の開けとして導入して、動かすことができる。その誰かの視点を通して、変わる風景や、移動する列車、隕石の形や色を、私の目の前にあるものとして感じることができる。<br /> ひょっとしたら清水さんの哲学的な謎は、清水さんが様々な境界を移動する過程で託された、隕石の破片でもあるのかもしれない。その正体の解明は、物語の執筆を通して、読者とともに進められている。<br /> &nbsp;<br /> インタビュー<br /> 誰かの視点を借りて体験する<br /> &nbsp;<br /> <br /> 田中:改めまして田中です。本日は最近本を出された『大いなる夜の物語』という本を出された清水将吾さんをお迎えしております。この哲楽ラジオですけど、だいぶ前回の収録から時間が空いてしまって、その間色々と別の活動していたのですけれど、この本を読ませて頂いてこれはちょっと再開せねばと思いまして、今日オンライン会議でご招待させていただきました。清水さん、今日はよろしくお願いします。<br /> 清水:清水です。よろしくお願い致します。<br /> 田中:最初に清水さんがどういう方なのかご紹介したいと思います。イギリスのウォーリック大学哲学科で博士号を取得された後日本大学研究員、東京大学特任助教それらのお仕事を経て、立教大学兼任講師を務めていらっしゃいます。他に目黒の哲学カフェで毎月進行役として哲学カフェを開催されていらっしゃったり、NPO法人「こども哲学おとな哲学アーダコーダ」という団体があるんですが、そちらで子供のための哲学のイベントを不定期で開催されていらっしゃいます。こちらのイベントなどは、最近ではオンラインで開催されていらっしゃるということですが、大学に限らず大学の内外、色々な場所で哲学対話の進行役を務めていらっしゃいます。ということで清水さん、今日はよろしくお願いします。<br /> 清水:よろしくお願いします。楽しみにしていました。<br /> 田中:『大いなる夜の物語』自体はどのくらいの構想に関わる時間をかけて書かれたのでしょうか。<br /> 清水:こういうお話をちびちび書き始めたのはもう随分前でもうかれこれ20年前ぐらいからいろんなものを書き溜めていたんですね。それで書き溜めて、書き溜めていって、大きなものを一つにまとめて書こうとは全然思ってなかったんですけど、東大時代にお世話になっていた小林康夫先生という方が「もっと書いてごらんよ、百書いてごらんよ」って仰ったんですね。「この調子で百個にしてみなよ」って。数十はあったんですけど、百書いてごらんよって言われて、百書いていくうちに、あ、ちょっと本を書いてみたいなっていう気持ちが出てきて。そういう細かいお話をいろいろつなげて大きなお話にするってことやってみたいなと思って。そうするうちに編集者の方と出会ったり永井均先生に応援して頂いたり色々あって。それで物語を大きく作り始めると、なんだか神話の力を借りて、という感じの言葉がふさわしいですかね。神話ってやっぱりすごいんだなと。神話のモチーフが色々出てきますけど、そういうものを使うとスルスルスルスル繋がっていってしまって、あ、できちゃったなっていう感じですね。大きな物語を書いていたこと自体はだいたい2年ぐらいです。<br /> 田中:今「百個書いてごらんよ」と、数字の話が出てきましたが、41の謎から構成されていて最初の1番目の謎42番目として戻ってくるような形になっているちょっと不思議な構成を体験できる本ですよね。私自身もこんなに謎のバリエーションを清水さんがお持ちだったということは、清水さんご自身のことは長く存じ上げていたのですが、謎のバリエーションについては、この本で初めて知ったところで、とても新鮮に読ませて頂きました。<br /> 清水:ありがとうございます。<br /> 田中:社会人になりたての二人の視点で物語が書かれているのも今から社会に出て行く人達にとっては共感を持って読んで頂けるんじゃないかなと思うんです。清水さんご自身が二十代前半ぐらいの年にお持ちだった謎も含まれているのでしょうか。<br /> 清水:そうですね、たくさん含まれていますね。ちょうどこういうお話を書き始めたのが自分が二十代前半の頃ですからね。そういう頃に得たヒントとか話の種みたいなのがすごく含まれています。<br /> 田中:足掛けもう10年から20年ぐらいこの謎は温めていらっしゃったっていう感じですね。<br /> 清水:本当にまさにそうです。<br /> 田中:謎のバリエーションもそうなのですけれど、ちょっと特徴的というか印象的だったのが、視点がいろいろ変わるところで。主人公視点のことをPoint of View、POVと言ったりすると思います。最近だったら、youtuberとか動画制作をしている方もPOVは気にする言葉みたいです。<br /> 清水:あ、そうなんですか。<br /> 田中:映像を撮る時の視点をどうとるのか。主人公視点で撮るのか、あるいは空間にxyz方向の次元があるとして、その中の視点で撮るのか。X軸方向、横に移動するような風景を眺める動きを「パン」。縦に高い建物を見上げたりとか木を上から見下ろしたりとかそういうY軸方向縦軸軸方向の動きを「チルト」って言うらしいのです。Z軸方向は奥行きを回転させるような動きを「ロール」って言ったりするみたいで。<br /> 清水:へ〜。<br /> 田中:最近私も動画制作の勉強し始めて、そういう言葉を耳にしていたところで、清水さんの小説を読ませて頂いて、すごく映像的に想像しやすくて。この本読んで色んな映像制作をされている方は、どういう風に映像化するんだろうということにすごく興味が湧いたところで。視点と空間の使い方が今までにない感じがしました。<br /> 清水:嬉しい、感動的です。喋っていいんですかねこれ。<br /> 田中:はい、どうぞ。<br /> 清水:そういう映像的な&#8230;自分が割と少年ジャンプとか、そういうのを読んで育ってきて、のめり込んで育...

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August 25, 2017

手話で因果論を解体する

(インタビュー◎2016年11月11日 シルバード洋菓子店にて Music: <a href="http://philosophy-zoo.com/archives/4267">Korehiko Kazama</a>)<br /> 高山守さんは、東京大学で哲学を教えていた。2013年に同大を定年退職した後、社会活動への関心もあり地元の手話講習会に通い始めた。<br /> 生まれは東京の江戸川区小岩。高校時代の倫理の授業では、教員に敵対心を抱かせるほど「物事の根本を掴まなければ気がすまない」性分だったというう。「なぜ生きるのか」の答えを求めるためキリスト教にも強い関心を持った高山青年は、商社マンになるという未来を思い描きつつも、哲学の道に舵を切る。東大の学部生当時全盛だったドイツ哲学の中でも、カントを精読するも、実存的な問いかけに対する満足のいく議論を見い出すことはできなかった。博士課程で後に40年近くかけて取り組むことになるヘーゲルに出会い、これだとのめり込んだ。<br /> 東京大学を定年するまでテーマにしていたのは、自由と因果をめぐる問題だ。世界には、「自然法則による因果性だけでなく、自由による因果性もある」のか、「自由は存在せず、すべてが自然法則によって起こる」のか。この二つの命題の対立は、『純粋理性批判』でカントが論じた第3アンチノミーとして知られるが、そこからヘーゲルを経て、高山さんは、因果論そのものを解体しながら人間の自由のあり方を記述する道を追い求めてきた。高山さんは、一貫して、原因と結果のつながりによって世界を因果的に了解することは間違っていると考えている。2010年と2013年に出された2冊の著作に因果の解体と自由のあり方の議論を収め、定年後は、しばらくアカデミックな哲学の世界からは遠ざかろうと考えて、ただの「ジジイ」として手話を習い始めた。ところが、過去とはしばらく別れるつもりだった手話の世界で、因果解体論を裏づける表現を見つけてしまった。「世界の因果的な了解は音声言語の認識の枠内にあり、そしてそれは間違っている。一方で自由な行為の一つ一つが自分という人間を形作る」。68歳になった今、高山さんは手話講習会の上級コースに通いながら、そう考えている。物理学者の中には、こうした問題領域がおよそ理解できず、論難に終始する人もいるが、高山さんの研究は進んでいる。<br /> この冬、日本手話学会で「手話言語と因果表現」というテーマで発表する。手話言語を用いたアプローチ自体、哲学史上稀に見る試みで、これから踏み出される高山さんの第一歩は、月面に初めて降り立ったアームストロングのそれと重なる。何せ、音声言語の形式による認識の限界によって生み出された哲学上の大問題が、手話の力で瓦解するかもしれないからだ。<br /> 昨年度、国の研究費の不採用通知を受けた高山さんは、「大風呂敷を広げ過ぎて、支離滅裂な思い込みをしているだけかもしれない」と笑っている。音声言語話者である研究者たちが、その限界に目を向けて、高山さんの研究を見守ることができるのか。それが問題だ。<br /> &nbsp;<br /> インタビューは「哲学者に会いにゆこう 2」でお読み頂けます。<br /> <a href="https://www.amazon.co.jp/gp/product/4779511534/ref=as_li_tl?ie=UTF8&amp;camp=247&amp;creative=1211&amp;creativeASIN=4779511534&amp;linkCode=as2&amp;tag=midap-22&amp;linkId=9f251d8b6404c687f5bd93a7488a9d11" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><br /> </a><br />

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